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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)974号・昭44年(ワ)7413号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

3 被告主張の損害の発生及びその填補の有無

(一) 三島町における歳入、歳出の処理

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

(1) 原告は、昭和二一年頃、大阪府下の味舌村村長に就任し、ついで、昭和二五年頃同村に町制が施かれて味舌町長となつた。その後、前記の通り、昭和三一年一〇月一日、味舌町、味生村、鳥飼村の三ケ町村が合併して三島町となつたところ、原告は、同年一〇月一二日、初代の三島町長に就任し、同四一年一一月一日、同町に市制が施かれて被告摂津市になつた後も、同四三年一〇月一一日まで引続き被告摂津市の市長の職にあつた。

次に、右三ケ町村合併後の三島町の収入役には、当初、旧鳥飼村の村長であつた訴外溝口甚太郎がなつたが(同人は助役も兼ねていた)、その後昭和三四年一二月頃、訴外永田重治が収入役になり、以後右永田が昭和四三年一〇月頃まで、三島町及び被告摂津市の収入役であつた。また、右合併後の三島町の会計課長は、旧味生村の収入役であつた訴外馬場好治郎であつて、同人は、その後昭和三七年一月頃まで引続き右会計課長の職にあり、ついで同三七年二月頃以降は収入役室次長、同三八年四月頃、以降同四一年三月頃まで、三島町の参事ないし嘱託として、引続き会計の事務を担当していた。

(2) 右馬場は、右の如く昭和三一年一〇月頃以降、三島町の会計課長ないし収入役室次長等(以下単に会計課長という。)として、収入役の指示監督の下に、三島町の歳入、歳出に関する金銭出納の事務を担当していたところ、三島町における公金の支出は、正規には、支出命令書を作成し、所管の長、収入役、助役、町長等の各決裁を得て支出することになつていた。

(3) ところで、右馬場が、三島町長であつた原告やその他の職員から公金の支出を求められた場合には、公金の支出命令書を作成する等の正規の手続をとらないで、取り敢えず公金の支出をしたこともしばしばあつたところ、このような場合には、会計課長の馬場としては、右公金支出後速やかに正規の支出命令書作成の手続をとり、右支出命令書に上司の決裁を受け、かつ、領収証等をつけて、正規の公金支出手続をとり、決算時には、その承認を受けるべきであつたにも拘らず、これを怠り、昭和三一年頃から同三九年頃までの長期間に亘り、正規の手続を経ないで公金を支出した分の多くについては、適宜自己の手帳やメモ等に支出の金額や内訳等を記載しただけで、それ以上の手続をとらなかつたり、或いは、領収証、請求書等をとつて、支出命令書作成の手続をとらず、さらには、その後一応所管の課等で支出命令書が作成されても、これに上司の決議を受けないままに放置しておくなどして、正規の支出手続をとらず決算にもあげなかつた。また、馬場は、右の外にも、歳入の一部について正規の歳入手続をとらないままに放置していたり、正規の支出命令書が作成されているに拘らず、これに基づく支出内訳簿に記載することを怠つたりしたため、決算洩れとなつたものもあつた。

(4) なお、馬場が正規の支出手続をとらないままに放置していた支出に関係のある前記馬場作成の手帳、メモ、領収証、請求書、不完全な支出命令書等は、昭和四一年頃まで、馬場のロッカーや机のなか、その他金庫などに未整理のまま放置されていたが、その後昭和四一年頃、三島町の監査委員勝成三らがこれを発見して前記のような杜撰な事務処理が明らかになつたところ、その後の監査委員勝成三らの監査の結果では、馬場作成の手帳、メモのみによる支出は二一八九万円余、領収証のみがあつて支出命令書の作成されていないもの及び支出命令書が作成されていても不完全であつたものによる支出は合計三九四三万円余、正規の歳入手続がとられていない歳入が五六万円余あると指摘され、(但し、右数額が正しいか否かは暫く措く)、昭和四三年当時において、被告摂津市の手持現金が収支計算簿上の現金よりも数千万円不足していると指摘された。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) 原告の損害賠償責任の有無等

(1) 被告は、まず、別紙一覧表(1)(2)の二〇〇万三二二二円の歳入については、当該各年度の決算の対象となつていなかつたから、歳入内訳簿に記載されていないとし、結局町長部局から収入役に引渡されておらず、公金として処理されなかつたから、三島町は右同額の損害を被つたと主張している。しかし、前記(一)の冒頭の各証拠によれば、三島町の当時の会計課長馬場好治郎の歳入歳出に関する事務取扱いは、極めて杜撰であつたことが認められるから、右二〇〇万三二二二円につき、それが各当該年度の決算の対象とされていなかつたからといつて、このことから直ちに右二〇〇万三二二二円が歳入歳出簿に記載されず、町長部局から収入役に引渡されないで、三島町のために支出されず、三島町が右同額の損害を被つたものとは到底認め難い。

のみならず、原告が右二〇〇万三二二二円の収入に関与したことを認め得る証拠は何らないから、仮に右二〇〇万三二二二円の収入に関し、三島町が右同額の損害を被つたとしても、原告にその損害賠償義務はないというべきである。

(2) 次に、被告は、領収証、請求書等はあるが支出命令書のない支出一九九七万七五五六円(別紙一覧表歳出(1)Ⅰ)、及び、領収証も請求書もなく支出命令書もない支出二一六六万二八三四円(別紙一覧表歳出(1)Ⅱ)、以上合計四一六四万〇三九〇円は、適法な支出手続がとられておらず、原告の恣意による違法な財政処理であつて、これにより、三島町は、公金の不足を生じて右同額の損害を被つたと主張している。しかし、右被告の主張事実に副う趣旨の<証拠>は、後記各証拠に照らしてたやすく信用できず、また、後記4に認定の諸事情のある本件では、<証拠>によるも、右被告の主張事実を認めることはできず、他に、右被告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

却つて、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

(イ) 前記領収証、請求書があつて支出命令書のないもののほとんどは、土木建築等による工事費、報酬、給料手当報償金、退職金、負担金、補助交付金、備品、物品、役務、修繕の各費用、公債、借入金の返還の資金、交際費、等の支出であるところ、右各支出の原因となつた債務負担行為が予算に基づかない等違法なものとは断定し難いから(本件では右違法を窺わせる証拠はない。)、後日正規の支出命令書が作成されさえすれば正当な支出として認められるものであつて、実質的には、三島町が当然に負担して支出すべきものであるから、支出命令書が作成されていない点で不適法な支出であるにしても、これによつて直ちに三島町が右同額の損害を被つたものとは認め難く、むしろ三島町として、正規の支出手続をとつて、正確な決算手続をとるべきものであつたのである。

(ロ) また、領収証、請求書もなく、支出命令書も作成されずに支出されたとされている前記二一六六万二八三四円については、前述の通り、馬場作成の手帳やメモに基づいて一応右同額の支出があつたものとされたのであるが、右手帳やメモの性格、記載内容に照らし、現実に右手帳やメモ通り金額の支出があつたか否かは疑わしいばかりでなく、右支出のなかにも、前記(イ)の場合と同様に三島町のために当然支出すべきものもあつて、正規の支出手続さえとられれば三島町において負担し支出しなければならないものも相当にあつた。しかるに、当時馬場が右正規の支出手続をとることを怠つていたに過ぎないのであつて、後日三島町としては、正規の支払手続をとつて正当な決算をすべきであつたのである。

(ハ) そして、右(イ)(ロ)の合計四一六四万〇三九〇円については、原告がこれを私的な用途に不正に使用したものはなく、右四一六四万〇三九〇円のうちで、原告がその支出を受けて使つたものも、その予算の範囲内で三島町のために使つたものであつて、元来三島町が負担すべきものであつた。

以上の事実が認められる。

そうだとすれば、被告主張の右四一六四万〇三九〇円については、その全額が支出されたものとは認め難いし、また、右のうち支出命令書等が作成されないで支出されたものについては、実質的には、三島町において負担し、支出すべきものであつたというべきであるから、右違法な支出により、三島町が右支出相当額の損害を被つたものとは認め難い。

のみならず、前記(一)に認定したところから明らかな通り、三島町の歳入、歳出の事務を実際に担当していたのは、会計課長(後には収入役室次長、収入役付会計係等)の馬場好治郎であつたところ、同人がその職務を怠り、正規の支出手続をとらずに公金の支出をしたままこれを放置していたのであるから、右違法な支出についての責任は右馬場にあるというべきである。そして、町長であつた原告が右違法な支出手続に直接関与したことを認め得る証拠はなく、却つて、<証拠>によれば、原告は、前述の如く会計課長等であつた馬場が公金の支出につき右の如き違法な支出手続をしてその後これを放置していたことについては、昭和四〇年以降、右問題が表面化してから始めて知つたのであつて、それまではこれを知らなかつたことが認められるから、右馬場の違法な支出手続につき、原告が町長として行政上の監督責任又は政治責任を負うことのあるは格別、民事上の損害賠償責任を負うものではないというべきである。

(3) 次に、被告は、別紙一覧表歳出(2)(九―一六頁)に記載の一四九〇万七七五八円については、支出命令書は作成されているが、支出科目の記載がないから違法な支出であり、また、別紙一覧表(3)Ⅰ(一七頁)に記載の五万〇一七九円は、支出命令書は作成されているが、支出年度の記載がないから違法な支出であり、右各支出は、町長である原告の恣意的な支出ないし予算に基づかない違法な支出であつて、三島町は右同額の損害を被つたと主張している。そして、前記(一)の冒頭に掲記の各証拠によれば、右被告主張のような支出命令書に基づき三島町の公金の支出がなされていることが認められるところ、支出命令書に支出の科目を記載せず、また、支出年度を記載しないことは、支出に関する事務手続としては、一応違法といえよう。しかし、右支出科目や支出年度の記載のない支出命令書に基づく支出が予算に基づかないもので、本来三島町の負担し支出すべきものではなかつたとの点については何らの立証もなく、却つて、<証拠>によれば、右支出命令書に基づく支出は、もともと三島町が負担し支出すべきものであつて、単に支出命令書の記載に一部脱漏があつたに過ぎないことが認められるから、右支出命令書に基づく支出により、三島町が実質的に右支出相当の損害を被つたとは到底認め難い。

のみならず、右記載の脱漏のある支出命令書に基づく支出について、町長である原告が具体的に指示命令する等直接これに関与したことを認め得る証拠はないから、(この点に関する<証拠>はたやすく信用できない)、右支出につき、原告が町長としての行政上の監督責任ないし政治責任を負うことのあるは格別、原告に民事上の損害賠償責任はないというべきである。

(4) 次に、被告は、別紙一覧表歳出(3)(一八―二三頁)に記載のうち、(△)、(△)(×)印のある三六三万五五九五円については、支出命令書はあるが、町長、助役、収入役、課長等の上司又は所管の決裁を経ていない違法な支出であつて、三島町は右同額の損害を被つたから、町長にその損害賠償責任があると主張しているところ、前記(一)の冒頭に掲記の各証拠によれば、町長、助役、収入役、課長等の決裁のない支出命令書に基づき、右三六三万五五九五円の支出がなされていることが認められる。しかしながら、右支出命令書に基づく支出が、本来三島町の負担し支出すべきものではなかつたことについては何らの主張立証もなく、却つて、<証拠>によれば、右支出命令書に基づく支出は、もともと三島町の負担し支出すべきものであつて、町長等の上司や所管の長にその決裁を求めれば当然決裁の得られるものであつたが、ただ右支出事務を担当していた会計課長の馬場がその手続を怠つていたに過ぎなかつたことが認められる。

してみれば、右支出命令書に基づく支出により、三島町が右支出相当額の損害を被つたとは認め難いのみならず、町長であつた原告が、右決裁のない支出命令書に基づく支出を指示する等直接これに関与していたことを認め得る証拠はないから(この点に関する<証拠>はたやすく信用できない)、原告が、町長として行政上の監督責任ないし政治責任を負うことのあるは格別、原告に民事上の損害賠償責任はないといわなければならない。

(5) 次に、被告は、別紙一覧表歳出(3)Ⅱに記載のうち(×)印のある合計五二〇万三六八六円については、右支出年度の決算の対象となつていないから、予算額を超過した違法な支出であつて、三島町は、右同額の損害を被つたと主張している。しかし、右各支出が当該年度の決算の対象となつていないからといつて、そのことから直ちに予算額を超過した違法な支出とは断定し難い。却つて、<証拠>によれば、被告主張の五二〇万三六八六円については、すべて正規の支出命令書が作成されており、正規の手続を経て支出されたものであつて、ただ、前記馬場が右支出命令書に基づく支出(歳出)内訳簿に記載することを怠つていたために決算洩れとなつたに過ぎないこと、したがつて、右支出は予算額を超過した違法な支出ではないこと、が認められる。

そうだとすれば、右支出が予算額を超過した違法な支出であつて、三島町が右支出相当額の損害を被つたとの被告の主張は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

(6) なお、<証拠>によれば、昭和三一年以降の三島町の分課条例では、町長の権限に属する事務を分掌させるために会計課がおかれ、会計課は、現金出納に関する事項、物品出納に関する事項、備品の管理に関する事項を分掌するとされていたこと、前記馬場好治郎は、前述の通り、昭和三〇年一一月三島町の会計課長となり、昭和三七年二月収入役室次長、同三八年収入役会計係になつたこと、以上の事実が認められる。ところで、被告は、当時三島町では、収支命令機関と出納機関とは実質的には未分化で、右馬場は、町長と一体となつて三島町の財政処理を行なつており、町長である原告自身が財政処理を無視し、右馬場に命令して原告の下に現金を持参させたと主張し、前記三島町の公金の違法な支出による損害につき、原告にも、実体上の損害賠償責任があるとの趣旨の主張をしているが、右被告の主張事実に副う趣旨の<証拠>は、<証拠>に照らしてたやすく信用できず、他に右事実を認め得る証拠はない。

却つて、当時及び現行の地方自治法によれば、法律上、地方公共団体の長は、当該地方公共団体の事務を管理し、これを執行するとされており(地方自治法一四八条参照)、また、市町村には収入役を置き(同法一六八条二項参照)、収入役は、現金の出納及び保管の事務その他を掌るとされている(昭和三八年法律九九号による改正前及び改正後の同法一七〇条参照)から、市町村の現金の出納及び保管の直接の最高責任者は、法律上は収入役というべきである。そして、前記(一)に認定した通り、三島町においては、昭和三一年一〇月以降、馬場好治郎会計課長の外に収入役が置かれていたのであるから、法律上は、三島町の歳入、歳出に関する現金の出納及び保管の事務上の最高責任者は、右収入役であつて、馬場会計課長は、その事務補助者であつたというべきところ、<証拠>によれば、前記三島町の事務手続上違法な支出手続につき、原告が直接馬場を指揮してこれを実施させたようなことはなく、むしろ原告は、当時の如き違法な支出手続がなされていたことを知らず、その後昭和四〇年以降に、右手続の違法が表面化され始めてこれを知つたことが認められる。

そうだとすれば、原告には、前述の通り、馬場のとつた違法な支出手続につき、実体上の損害賠償責任はないというべきである。

(7)  以上の理由により、原告には当時被告主張の六七四四万〇八三〇円の損害賠償義務はなかつたものというべきであるし、また、被告主張の公金不足額七二五一万三〇五二円について、原告がこれを個人で賠償すべき実体上の義務のあつたことを認め得る的確な証拠もないのであつて、結局、原告が個人的に被告主張の右七二五一万三〇五二円の賠償責任を認めたこともなければ、原告が実体上の個人責任として、右七二五一万三〇五二円(被告主張の五一万〇六〇二円を含む)につき、被告主張の如き分割による支払を約して、その支払をしたとも認め難いというべきである。

もつとも、<証拠>には、原告が責任をもつて、別紙目録記載の通り、昭和三九年九月二三日から同四三年九月二八日までの間に、右七二五一万三〇五二円を支払う旨約し、これに基づいて右金員を支払つたことを窺わせる趣旨の記載があるが、被告主張の違法な財政処理行為により被告が被つたと主張する損害の合計額(別紙一覧表に記載の合計額)は、六七四四万〇八三〇円であつて、七二五一万三〇五二円ではないし、また、前述の通り、当時原告には個人として被告に対する被告主張の損害賠償責任はなかつたもので、このことと、後記4に認定の諸事情、並びに、原告本人尋問の結果に照らして考えると、前記乙号各証の記載は、後記の通り、原告が公の機関である町(市)長としての行政上の監督責任ないし政治責任を認め、その立場上、責任をもつてこれを善処し、その資金的な手当をすることを約したに過ぎないものと認めるのが相当である。(なお、仮に原告が<証拠>等により、被告の保管現金の不足金を弁済する旨約したものであると解しても、上述の通り、原告は、個人として右不足金を賠償する義務があつたとは認め難いから、右弁済契約は、いわゆる非債の弁済を約したものであつて、無効というべきである。)

(8) そうだとすれば、原告が被告に交付した七二五一万三〇五二円は、原告が被告主張の弁済契約等の履行ないしは損害の弁償として被告に支払つたものであるとの被告の主張は失当である。

4 原告主張の不当利得の成否

原告が被告に交付した七二五一万三〇五二円については、被告主張の弁済契約の履行ないし損害の弁償として、原告が被告に支払つたものでないことは、前記3に認定した通りであり、他に、被告が原告から右七二五一万三〇五二円を受けとる法律上の原因があることについては何らの主張立証もない。

却つて、<証拠>を総合すると、

次の事実が認められる。すなわち、

(一) 前述の味舌町、鳥飼村、味生村の三ケ町村が合併した当時、地方事務所の監査において、味舌町の関係で、昭和二五年から同三一年までの徴収簿による徴収と、決算書による収入額との間に、一一一三万〇一一五円の差があると指摘されたので、味舌町の前町長であつた原告、同前収入役岡本武雄、同元収入役坂谷利夫の三名は、連名で右一一一三万〇一一五円につき、早急に関係職員を調査の上、その弁償は勿論、私財を投じても、これを弁済する旨の昭和三一年一〇月九日付誓約書(乙第五号証の一)を作成してこれを三島町に差入れたが、その後の調査の結果では、右金額の不一致は、書類上の不備によるものであつて、その収入には不足はないとされた。

(二) 次に、前記三ケ町村合併当時、味生村については六〇五万二七九二円、鳥飼村については二二八万五二八八円、合計八三三万八〇八〇円の赤字(現金不足)があつた外(甲第六号証参照)、鳥飼村には、鳥飼中学校を建設した際に鳥飼農協から借入れた借入金の残額が一二一五万九四八八円あつたこと等から、三島町の昭和三一年度の決算書(昭和三二年八月二八日付)(乙第二二号証)では一四七一万〇三一六円の現金不足が生じ、昭和三二年度の決算書(昭和三三年八月二八日付)(乙第二三号証)でも七三五万六四二七円の現金不足が生じたとされている。

(三) 鳥飼村が鳥飼農協から借入れていた前記一二一五万九四八八円については、前記三ケ村合併の際、これを明示して引継ぎがなされたことはなかつたが、その後右借入金のあることがわかり、三島町において、昭和三三年一〇月一日に五一五万九四八八円を、同年一二月一日に七〇〇万円をそれぞれ返済したところ(甲第九号証)、右返済資金は、これを正規に予算化して支払うことなく、銀行ないし共済組合からの借入れ金でまかなわれ、決算にも上程されなかつたので、これが三島町のその後の現金不足(収支計算簿上の現金の手持現金の差)の一因となつた。

なお、原告は、右鳥飼農協からの借入金については、昭和三二、三年頃、当時の助役兼収入役であつた溝口甚太郎からこれを聞いたので、同人に対し、責任をもつて、起債ないし補助金の交付等適正な手続で解決するよう指示したところから、その後は適正に処理されたものと考え、右借入金の問題については原告の念頭になかつた。

(四) 次に、三島町では、収入役の永田重治のはからいで、(イ)昭和三五年九月二七日一〇万円、(ロ)昭和三六年一〇月三日三九万六〇〇〇円、(ハ)昭和三八年四月三〇日一六〇万円、がそれぞれ支出されているところ、右(イ)の一〇万円は、三島町所有の衛生車が交通事故を起こしたので、その被害者に対する賠償金として支出されたものであり、(ロ)(ハ)の合計一九九万六〇〇〇円は、地元の企業が大阪府営の神﨑工営所に納付すべき負担金を、三島町が代納したものであるから、いずれもこれを予算化して、公金支出の手続をとれば正当に支出され得る性質のものであつたが、当時の永田収入役がその後右予算化して正規の支出の手続をとらなかつたため、三島町の現金が帳簿上の現金に比し、右同額だけ不足することになつた。

(五) また、三島町では、前述の如く、会計事務を担当していた馬場好治郎が、昭和三一年度から同三九年頃までの間に、三島町の公金を支出する際に、正規の支出命令書が作成されているのに、これを支出簿に記載して決算にあげることを怠つたり、借用証書や領収証等を受けとつたのみで、正規の支出命令書の作成手続を怠つて決算にあげることを怠り、さらには、借用証書、領収証、支出命令書等のないままに公金を支出して、その後正規の手続をとることなく放置していたために、これが三島町の現金が帳簿上あるべき現金にくらべ不足する一因となつた。

(六) なおさらに、三島町では、右のような事情から帳簿上あるべき現金にくらべ相当多額の現金が不足していたので、これを補うため、永田収入役のはからいで、他から金員を借受け、三島町の支出資金にあてたところから、右借受金利息の支払を余儀なくされ、これがまた、三島町の現金が帳簿上のあるべき現金にくらべ不足する一因となつた。

(七) 以上(二)(三)(四)(六)の各金員については、当然三島町の負担し支出すべき金員であつたから、三島町としては、これを予算化して正規の支出手続をとるべきであつたし、また、(五)の支出についても、正規の事務処理をして決算にあげるべきであつたのに、各担当者らがこれを怠つていたため、三島町の現金が帳簿上のあるべき現金にくらべかなり不足することになつたところ、原告は、昭和三九年夏頃、当時の三島町の収入役であつた永田重治から右現金不足を指摘され、右不足を補填して正常な姿に戻すよう強く要請されたので、三島町の最高責任者である町長としての立場を考え、右永田の意見を入れて、取り敢えず、三〇〇万円を調達し前記(四)の支出等による三島町の公金不足を一時的に補填する趣旨の下に、昭和三九年九月二二日頃、右永田を通じて、右三〇〇万円を三島町に交付した(乙第二四号証の二)。

(八) ついで、原告は、昭和四〇年七月頃、前記収入役の永田などから、昭和三一年一〇月二八日以前(主として前記合併以前)から一八〇〇万円ないし二〇〇〇万円の現金不足があり、また、右以降には約二三〇〇万円の現金不足があると指摘されたところ、当時その真偽については不明であり、かつ、右現金不足があつても、それは原告の個人的な責任に基づくものではなかつたが、原告は、前述の如く、三島町の最高責任者である町長の立場上、一応右永田の指摘する金額を了承し、原告が責任をもつて処理する旨の昭和四〇年七月二日付の誓約書(乙第二四号証の一)を作成して、これを永田を通じて三島町にさし入れた。

(九) その後、原告は、永田収入役から、問題が解決するまで、三島町の現金の不足分の立替として、取敢えず一五〇〇万円を三島町に入れて欲しいとの要請を受けたので、そのつなぎ資金として、前記三〇〇万円の外に、さらにその個人資産のなかから、昭和四〇年七月九日七〇〇万円を、同年八月一四日八〇〇万円を、それぞれ永田収入役を介して三島町に交付した。

(一〇) 右のようなところから、原告としては、三島町の収支等につき、徹底的に監査する必要があると考え、その頃、訴外勝成三、木田福松らを監査委員に任命して、右監査を依頼した。

そこで、右勝成三ら監査委員は、昭和四一年一月頃から約一年余りに亘つて、三島町の関係薄冊、決算書、証拠書類等を詳細に検討した結果、昭和三一年度以降の三島町の決算は正当なものではないと認め、当時の被告摂津市の市長であつた原告に対し、昭和四二年二月七日付の報告書(乙第一〇号証の一)をもつて、三島町から市制施行によつて市になつた被告摂津市には、多額の現金不足があるので、市長である原告は、市の最高責任者としての日頃の監督上の欠陥を自覚し、次の決算議会において善処されたい旨の勧告をし、ついで、昭和四三年一月二四日付の勧告書(乙第一〇号証の二)をもつて、被告摂津市には、それまでに合計五七〇〇万円余の現金不足が生じていると指摘し、その善処方を強く要請する勧告をした。

(一一) 原告は、右勧告を受けた後、関係者らとその善後策を協議し、原告の外、当時の被告摂津市の助役の溝口甚太郎、同収入役の永田重治、同会計課長の岡本武雄、同前会計課長の馬場好治郎の五名が、その各職務上の責任を明らかにする趣旨で、右五名の連名をもつて、さきに監査委員から勧告を受けた五七〇〇万円の補充については、昭和四三年五月三一日までに、右五名の責任をもつてその補填に当る旨の監査委員宛の誓約書(乙第五号証の二)を作成して交付した。

ところで、右誓約書に署名したもののうち、原告以外のものは、右五七〇〇万円余については、もとより私財を投じてこれを補填する意思はなく、その後現実にこれを補填しようともしなかつたので被告摂津市の最高責任者である市長の原告が、その立場上、右監査委員指摘の不足金を一時補填することとし、その個人資産のなかから資金を捻出して、別紙目録(4)ないし(10)に記載の通り、昭和四三年五月三一日から同年九月二八日頃までの間に、合計五七〇〇万三〇五二円を、収入役の永田を介して、被告摂津市に交付した。

(一二) 以上の通り、原告は、昭和三九年九月二二日頃から同四三年九月二八日頃までの間に、前後一〇回に亘り、合計七二五一万三〇五二円を三島町及び被告摂津市に交付したが、当時、三島町及び被告摂津市において、右同額の現金不足があつたか否かの点は暫く措くとしても、相当多額の現金不足があつた。しかし、右現金不足は、前述の通り、味舌町、味生村、鳥飼村の三ケ町村合併以前の鳥飼農協からの借入金を返済するための資金、その他三島町の支出資金に充てるため、銀行ないし共済組合から借入れた借入金の返済及びその利息の支払いや、三島町の収入役永田重治、同会計課長馬場好治郎の歳入、歳出の事務処理上の不手際から、帳簿上生ずるに至つたものであつて、原告が個人的に三島町の公金を不正に使用したために生じたものではなかつたし、また、原告が個人的に、右不足金を賠償すべき義務もなかつた。

(一三) 従つて、原告は、当時、三島町及び被告摂津市の現実の現金が帳簿上あるべき現金にくらべて不足していることにつき、個人的にその損害賠償責任があることを認め、これを賠償する趣旨で前記合計七二五一万三〇五二円を、三島町及び被告摂津市に交付したものではないのであつて、将来、当然その返還を受け得るものと考えて、右金員を交付したのであり、また、前記乙第五号証の二の誓約書や乙第二四号証の一ないし四の覚え書、誓約書等の書面も、原告において、その個人的な賠償責任のあることを認め、その弁済をする趣旨で作成したものではない。(ちなみに、証人勝成三(第一回)は、「誰が責任をもつて被告摂津市の現金の不足額を最終的に補なうかは別として、乙第一〇号の一ないし三により、原告ら市長に対し、とり敢えず不足金の被告摂津市に入れなさいという勧告をした。」という趣旨の証言をしている―第一回口頭弁論期日における証人勝成三の証人尋問調書二八枚目裏から三一枚目まで参照。)

以上の事実が認められる。

そうすれば、右現金不足につき、原告としては、三島町長としての行政上の監督責任ないし政治責任は免がれないとしても、右現金不足をその個人資産をもつて補填する実体法上の損害賠償義務はなかつたものというべきであつて、原告は、法律上の義務なくして、被告に前記合計七二五一万三〇五二円を交付して同額の損害を被り、一方被右は、法律上の原因なくして、不当に右同額の利得を得たものというべきである。

5 よつて、被告は、原告に対し、右不当利得金七二五一万三〇五二円を返還すべき義務があるというべきである。

(後藤勇 八木良一 小野木等)

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